うつ病の中には、薬によって引き起こされるうつ病があります。
これを「薬剤惹起性うつ病」と呼びます。すべての薬には、治療の効果があると同時に、何らかの副作用があります。
副作用の中でも、胃腸障害などの身体症状であれば医師も気づきやすいのですが、うつ症状や異常行動などの精神症状の場合、つい見落としがちになります。
抑うつ症状は、患者さんにとって、とても苦痛な症状ですので、十分に注意する必要があります。
目次
「薬剤惹起性うつ病とは?」
薬によってうつ病が引き起こされるものです。インターフェロン製剤、副腎皮質ステロイド薬などの服用により起こることがわっかっています。
もしも、“眠れなくなった”“不安・イライラがでる”“色々な物事に興味がなくなった”“色々なことを面倒に感じるようになった”“気分が落ち込んだ”“食欲がなくなった”などの症状がみられた場合には、薬剤惹起性うつ病が疑われます。
特にステロイド薬投与量は1日当たり10~20mg程度でも薬剤惹起性うつ病を発症する可能性があるといわれ、40mgを超えると薬剤惹起性うつ病の発症率が増加するといわれています。
また薬剤惹起性うつ病の特徴として、抑うつ気分や理由もなく悲しい気持ち、不安などの症状よりも、興味や意欲の減退やエネルギーの喪失といった精神運動抑制症状が強く出ることが多いと言われています。
薬剤惹起性うつ病を早期発見するためには、うつ病の症状の原因として薬があることを認識し、疑わしいと感じた時は、医師に相談し投薬の中断、中止、薬の変更を希望することです。
「うつ病を引きおこす可能性がある薬」
うつ病を引きおこす可能性がある薬は多岐にわたっていて以下のものがあります。
- 降圧薬(レセルピン、β遮断薬など)
- ステロイド(副腎皮質ホルモン)
- 経口避妊薬
- 抗結核薬(サイクロセリン、イソニアジド、エチオナミドなど)
- 消化性潰瘍治療薬(シメチジン、ラニチジンなど)
- 鎮痛薬(インドメタシン、ペンタゾシンなど)
- 抗パーキンソン病薬
- 抗がん剤(ビンクリスチン、ビンブラスチンなど)
- 抗ウイルス薬(インターフェロン)
- 子宮内膜症治療薬(ジエノゲスト、ダナゾール)
この中でも次にあげる薬は、特にうつ病の症状が出やすいことで知られています。
◎レセルピン
降圧薬として使われるレセルピンを長期間服用すると、抑うつ症状が起こるといわれており、飲み始めてから半年くらいで症状が出ることが多いようです。
◎副腎皮質ステロイド剤
副腎皮質ステロイド剤も抑うつ症状が出やすい薬として知られています。抑うつ症状の他にも、幻覚や妄想、不眠、焦燥感などがみられることもあります。
これらの症状は、だいだい2〜3週間でなくなっていきますが、再発することがあるので注意が必要です。
◎インターフェロン(抗ウイルス薬)
ウイルス性肝炎の治療薬として使われるインターフェロンも、抑うつ症状が出やすい薬です。
1日の投与量が多い患者さんや、高齢者の方の場合、副作用が強く出ることがあります。抑うつ症状の他にも、食欲不振、倦怠感、気力が無くなる、不眠などの症状があらわれます
上にあげたような薬を服用している人は、注意が必要です。
これらの薬を服用していて、気分が落ち込む、眠れない、イライラする、何もする気になれない、食欲がないなどの症状があらわれたら、薬剤惹起性うつ病を疑ったほうがいいかもしれません。
「副腎皮質ステロイド剤とは?」
ステロイドというと、みなさん一度は聞いたことがあるでしょう。皮膚科で症状がひどくなった時など、子供にでも出される場合もあります。ステロイドは皮膚に塗る薬だけではありません。
ステロイドとは、体内で生成される副腎皮質ホルモンの中に、糖質コルチコイドという種類があり、この糖質コルチコイドの代表的なホルモンであるコルチゾール(ヒドロコルチゾン)は最も多く生成される物質です。
このコルチゾールは様々な作用をもっており、タンパク質代謝、糖の代謝、脂質代謝、骨の代謝など多くの体内形成に関係しており、このコルチゾールをもとに作られたのが副腎皮質ステロイド剤なのです。
副腎皮質ステロイド剤の作用としては、抗炎症作用、細胞増殖抑制作用、免疫抑制作用、血管収縮作用など様々な作用があり、気管支喘息などのアレルギー性疾患、内分泌疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患、白血病などの血液疾患など様々な病気や症状で使用されています。
「副作用はごく稀ですが念のために…」
今回紹介した、薬剤惹起性うつ病は、比較的少ない副作用です。
ただこの副作用は、気づかずに放置しておくことで、どんどん悪化し健康に影響を及ぼすことがあり、早めに気づいて対処することが大切なります。
これらの症状があらわれたら、すぐに医師や薬剤師に連絡するようにしましょう。
薬剤惹起性うつ病は薬の使用をやめることで症状はよくなりますが、他の疾患で出された薬なので自己判断でやめたりせず必ず医師に相談してください。
記事監修・佐藤典宏(医師)
1968年・福岡県生まれ。
1993年・九州大学医学部卒業後、研修医を経て九州大学大学院へ入学。 学位(医学博士)を取得後、米国ジョンズホプキンス医科大学に5年間留学。現在は福岡県内の病院で、診察と研究を行っている現役医師。メディカルサプリメントアドバイザー資格